作業日:2022.05.23
前回、岩石カッターで作成した岩石チップをスライドガラスに貼り付けました。(⇒こちら参照)今回は、貼り付けた岩石チップを0.03mmまで削ります。スライドガラスに貼り付けた直後の写真は以下です。これを削って磨いていきます。
※※岩石のプレパラート(以降「岩石薄片」と記載)の作成方法は、日高山脈博物館、山の手博物館、北海道大学総合博物館のパラタクソノミスト講座、で教わった方法を参考にしています。また、子供の頃、中学校の理科クラブでの岩石薄片作成経験が原体験となっていることを書き添えておきます。
表面が丸みを帯びていて水平面がないので、ダイヤモンド砥石300番で水平面を出し、鉄板&カーボランダム800番 で整える感じでやりました。今回は岩石チップが薄い(1.5mmくらい)ので、ちょびちょび確認しながら削ります。
これで、だいたい0.3mmくらいだったかな。。光がだいぶ通るようになってきました。右側が厚く、左側が薄いです。左側の方が光が多く通り明るく見えていますので薄いです。このまま削ると薄い方が先になくなってしまうので、厚みが均一になるように右側をほんのちょっとだけ多めに削っていかねばなりません。
ガラス板の上でアランダム1500番でほんのちょっとずつジワジワ削っていきます。薄いため、均一な厚みに修正する余裕があまりなく、細かな研磨粉でゆっくりジワジワ修正していく方法をとっています。私は削りが下手なので、粗い研磨粉で削ると厚みを修正する前になくなってしまうのではないかと思いました。厚いところに指先でピンポイントに力を入れて、少しずつ削ります。光が多く通るようになったら、ちょくちょく偏光顕微鏡で見て、岩石薄片全体の干渉色をみて、どこが厚いのかを確認し、その部分にまたピンポイントで力入れて削っていくことを繰り返します。
最終的には厚さ0.03mmにします。0.03mmになったかどうかは、偏光顕微鏡のクロスニコル(偏光版を直交させた状態)で見た時の鉱物の色(干渉色という)で判断すると教わりました。
干渉色は偏光顕微鏡のクロスニコルで、薄く削った鉱物に光を通して見た時の色です。干渉色は鉱物の複屈折率と岩石薄片の厚さにより変化します。色の変化には法則性があり「ミシェルレビの干渉色図表」(*1,2)として書籍等に載っています。
鉱物により複屈折率は決まっているので、ある鉱物に着目すると、岩石薄片の厚さにより色が変わって見えることになります。岩石薄片の厚さが0.03mmの時の色を「ミシェルレビの干渉色図表」で確認できれば、鉱物がその色になるまで削れば0.03mmになったことになります。
通常は、石英か長石の干渉色で判断することが多いようです。岩石の多くは石英か長石が含まれていますので現実的です。石英の複屈折率は0.009(*2)。シェルレビの干渉色図表では、複屈折率0.009、岩石薄片の厚さが0.03mmの時、白~淡い黄色です。長石の複屈折率は幅があります。長石が固溶体(成分の違う長石が混ざっている)であるためです。日本の火山に一般的にある安山岩の中に含まれる灰長石という長石は複屈折率が0.008~0.01(*2)。干渉色表からは白~黄色です。
なのですが。。。
今回の岩石は特殊。石英も長石も入っていないのです。この岩石は蛇紋岩か角閃岩かどちらかだろうと思って採集した岩石です。蛇紋岩も角閃岩も地下深いところにある岩石で、地表にはあまり出てこないため特殊としました。では何を頼りに厚さを推測するか。蛇紋岩だとすると、ほぼほぼ蛇紋石という鉱物の塊。角閃岩だとすすると、ほぼほぼ角閃石という鉱物の塊です。蛇紋石の複屈折率は0.004~0.007(*2)。角閃石の複屈折率は0.020を超えるので派手な赤とか青とかになります。蛇紋石ならば、石英・長石のように厚さ0.03mmで無色(白)に見えるはずです。
(※1)「ミシェルレビの干渉色図表」 岡山県倉敷市の博物館のページのようです。わかりやすかったです。
(※2) 偏光顕微鏡と造岩鉱物 第2版 黒田吉益・諏訪兼位 共著 共立出版株式会社
干渉色が白になるまで削った状態。少し緑がかった透明になりました。
岩石薄片のフォーマルな手順では、カバーガラスをかけます。しかし、接着剤に使うカナダバルサムは時間が経つと黄色く変色してしまうのです。そのため、マニキュアを塗るだけにします。日高山脈博物館で教わった方法で、良い方法と思っています。顕微鏡観察時に歪まずに見え、色もおかしくならず、しっかり見えます。時間が経っても変色しないです。後から除光液で拭いとることもできます。便利です。
これで完成です。削りが下手なので、スライドガラスまで削ってしまったようで、ガラスが一部白くなってしまいました。まあいいか。
オープンニコル
クロスニコル
白く見えています。鉱物の各結晶は色々な方向を向いているので、白もあればグレーも、黒もあります。光としては、どの波長も同じ強さというか時間というかで屈折しているので、色が付いていない状態になっていて、明るさが変化しているだけなのかなと思います。真っ黒の部分や右側の茶色の脈は別の鉱物ですが、それ以外のグレーや白の部分は、採集地、採集時の産状、岩石薄片の厚み、干渉色から、恐らく蛇紋石と思っています。少なくとも、角閃岩ではないことがわかりスッキリしました。茶色い部分は何の鉱物でしょうね。方解石のように高次の干渉色を示す部分があるので、複屈折率が高い鉱物ではないかと。。。
私は、岩石薄片を作る時は、いつも、クロスニコルで見た時の美しさを楽しみにしています。クロスニコルの時は、顕微鏡のステージを回すと、このように、色がコロコロ変化して綺麗です。今回はモノクロに近いですが、かんらん石などの複屈折率の高い鉱物が多いと、カラフルでまるで宝石のように見えます。
オープンニコル
クロスニコル
さて、この岩石は主に蛇紋石でできていると思われるので「蛇紋岩」と思われます。ですが、蛇紋石には3種類(「アンチゴライト」「リザルダイト」「クリソタイル」)あります。どの蛇紋石でしょうかね。経験的に、綾織状で、かつ、メッシュ構造のない蛇紋岩は、アンチゴライト岩ではないかと思うのですが、調べる必要がありそうです。
元の岩石はこれです。