S型顕微鏡の広視野化 ~なるべく安く~

 自宅で使用しているニコンPOHの視野を広げたいと思った時のお話です。
 博物館で研究用の偏光顕微鏡「ニコン ECLIPSE」で岩石薄片を見せていただいた時、とても広い視野、クリアで解像度が高い像、これは観察しやすいと思いました。透過、反射、各光源での観察が可能で魅力的でした。百万円以上する代物ですので、個人的に購入するのは難しいとも思いました。自宅にあるニコンPOHでも、ECLIPSE程の像は得られずとも、視野を広くしたいと思い、やってみることにしました。

結果

 結果から言うと、以下の写真のように、視野を広げることができました。
 左写真が従来、右写真が対策後です。対策後は左右が欠けていますが、これは撮影時に欠けてしまいました。撮影したスマホのカメラのレンズでは画角が足りず、左右が欠けてしまいました。それほどに視野が広がっています。
 

以下に、どう対策したかを書いていきます。興味があれば読み進めてください。

視野とは

 まずは顕微鏡で言う視野とは何かをわからなければならないと思うので、そこから入ります。視野とは、右の図のように、顕微鏡の接眼レンズを覗いたときに丸く見える部分です。これが広がると観察しやすくなると思うのです。

 顕微鏡は、スライドガラスのサンプルの像が対物レンズで拡大され、接眼レンズでさらに拡大されて見えます。対物レンズで拡大された像は、接眼レンズを外すと見ることができます。鏡筒の中心に丸く明るい部分があります。これが、対物レンズで拡大された像で、瞳と言われます。肉眼で見ると、サンプルのディテールがハッキリと見てとれます。

 視野を広くするといっても、この瞳の範囲以上には見えないはずです。接眼レンズにより、瞳の中でどのくらいの範囲を見れるかが決まっていて、視野数と呼ばれます。視野数が大きいと、対物レンズの瞳の中の広い範囲を見ることができます。
 また、視野の大きさは、接眼レンズの倍率によって変わります。10倍の接眼レンズと5倍の接眼レンズを比較すると、5倍の接眼レンズは拡大率が低いので、視野の直径が10倍の接眼レンズの半分になり、小さいです。

まとめると、以下のようになります。

対物レンズを固定で考えると、
・視野の広さは、接眼レンズの視野数により変わる。
 ※視野数が大きいほど、サンプルの広い範囲を見ることができる
・視野の大きさは、接眼レンズの倍率によって変わる。
 ※5倍の接眼レンズは10倍の接眼レンズの半分の直径。10倍より大きい倍率になったらどうなるか未確認。


視野数とは

 では視野数とは何か。インターネットで検索するとすぐ見つかります。

視野数(FN:Field Number):接眼レンズで見ることができる中間像の直径(mm)(*1)

 中間像とは何か。わかりづらいです。
 この像のサイズは、スライドガラス上の実視野のサイズでもなければ、接眼レンズのレンズのサイズでもなく、接眼レンズ内に結像している像のサイズというところでした。下に図を示しておきます。

中間像とは

 中間像はインターネットで調べるとすぐ見つかります。レイマーの顕微鏡の用語集がわかりやすかったです。(*2)

中間像とは対物レンズによって作られる像で、接眼レンズ内にある視野絞りという円形の金属の輪の部分にできます。

 顕微鏡は対物レンズで得られる拡大した像を接眼レンズの筒の中で一旦結像し、その像を接眼レンズのレンズで拡大して見せていることのよう。この一旦結像した像のことを中間像というらしい。中間像は、接眼レンズ内の視野絞りがある面で結像しているようです。視野絞りの直径が実質「視野数」と書かれています。

 今回は、対物レンズが2倍、接眼レンズを10倍で試しています。


視野数を大きくするには

 視野を広げるには、視野数が大きい接眼レンズを使用するとよいことがわかりました。自宅にあるニコンPOHで使用している接眼レンズを確認してみました。3種類の接眼レンズがあります。

 1:H.K 5x    視野数 21 POH 標準装備レンズ
 2:D.H.K.W 10x 視野数 18 POH 標準装備レンズ
 3:CFW 10x   視野数 ? CF光学系レンズとして、過去に別途購入

 21より大きな視野数のレンズを装着するとよさそう。現在は超広視野と言われる視野数25以上のものがあるので、その中から選ぶことにします。CFW10xの視野数は調べると18,20,21と色々出てきてハッキリしないので?とします。

 視野数25 :CFIUW 10x(ニコン)
 視野数26.5:WH 10x/SWHK 10x/SWH 10x-H(オリンパス)
 視野数26.5 or 27 :CFUWN 10x(ニコン) 視野数がハッキリしない

 ここで、そもそもの物理的問題があります。POHの接眼レンズ挿入口が23.2mm径(JIS鏡筒と呼ばれる)である点です。視野数22以上の広視野接眼レンズは胴径が30mmのものがほとんどで入りません。JIS鏡筒顕微鏡の接眼レンズに22以上の視野数を見かけないのは頷けます。そうではあっても、やりようはあると思うので実験してみます。

 視野数26.5 or 27の「CFUWN 10x」であえて試してみることにしました。中古で数千円程度でした。発売当時は数万円していたのだと思いますが、具体的にはわかりません。POHに対してダメでも、実体顕微鏡で使用できますのでよいかなと思いました。

 参考: 主なメーカー/機種接眼レンズ視野数表 Mecan Imagingのホームページ

実験する

 CFUW10xを購入して実験してみました。

実験環境

顕微鏡:ニコン POH 13型 ※詳細は(*5)参照
対物レンズ:ニコン Plan アポクロマートレンズ 2倍
接眼レンズ:ニコンのレンズ
 1:H.K 5x    視野数 21 POHに標準装備のレンズ
 2:D.H.K.W 10x 視野数 18 POHに標準装備のレンズ
 3:CFW 10x   視野数 ? CF光学系レンズとして、過去に別途購入
 4:CFUW 10x  視野数 26.5 or 27 今回購入した超広視野レンズ 中古で1個5000円程度


POHへのCFUW10x装着

POHの接眼レンズ装着穴です。JIS鏡筒なので23.2mm径です。

JIS鏡筒には30mm胴径であるCFUW10xは入らないです。装着するには径を合わせる必要があります。左眼はCFUW10xが2mm程度細く、右眼はPOH側が2mm程度細いです。

左眼はCFUW10x側にゴムを巻いて径を合わせます。

右眼はPOH側にゴムを巻いて径を合わせます。

左眼を顕微鏡にセットしてみます(左写真)。 この状態では挿入が浅く不安定でした。そのため、POHの視度調整ダイヤルまで覆えるくらいのサイズで作り直して安定させました(右写真)。これでも視度調節ダイアルは回るし、CFUW10x本体でも視度調整ができるので、なんとかなります。
右眼は、CFUW10x側にPOH側をスッポリ覆えるくらいの幅でゴムを巻き、顕微鏡にセットしてみました。

セット完了です。この後で、視度調整と左右の接眼レンズの間隔を調整しました。また、ゴムでセットしているので、接眼レンズの中心が左右で微妙にずれていて見づらかったのですが、手で微調整して双眼で違和感なく見れるようにしました。


視野がどう変わったか

 各接眼レンズを装着して写真をとりました。
 CFUW10xは広く、かつ、大きく見えることが確認できました。
 常用しているD.H.K.W10xとCFW10xは安定してクッキリ見えます。しかし視野が広くない(視野数18)です。H.K5xは視野が割と広い(視野数21)ですが、倍率が低いため広い範囲を小さく見るので細かすぎて見づらくなるのが残念です。
 写真撮影は、接眼レンズにスマホのレンズを近接させて撮影しました。手持ち撮影でもあるので画質はあまりよくないです。視野の端に近い部分は収差が大きくブレてしまいました。CFUW10xはスマホのレンズの画角では入りきれなかったです。

 視野数はどうか。視野数がわかっているD.H.W.K10xを基準とし、他の接眼レンズがどのくらいの視野数になるかを線で示したのが下の図です。CFUW10xはJIS鏡筒より太いため鏡筒に挿しておらず、結像面の位置がズレて若干拡大されて見えていると思われました。そのため、D.H.K,W10xと同じ縮尺に縮小してから計算しています。実際に見えている像のサイズから視野数を想定すると、CFUW10xの視野数は23.49となりました。また、CFW10xの視野数はD.H.K.W10xと同じ18であることがわかりました。

 CFUW10xは視野数26.5 or 27ですが、視野絞りの内側に対物レンズの瞳の外縁と思われる部分が見えており、恐らく、対物レンズの視野がほぼ全て見ていると思えます。今できる最大視野を見れているを思うので良しとします。
※なお、H.K5xは5倍なので拡大率が低く小さく見えますが、他の10倍のレンズと比較するため、D.H.K.W10xと同じ縮尺に拡大して視野数を計算しました。
 下図は、視野の大きさを単純に見えている大きさで比較してみたものです。CFUW10xはD.H.K.D10xの1.4倍の直径で、接眼レンズを覗くと、目の前一杯に像が見えるくらい広く、若干拡大されて見え、いい感じだと思いました。

 なお、CFUW10xの装着は実験のため仮付けです。今後は、他の接眼レンズと入れ替えがスムーズにできてズレずに見れるように、アルミ管等を加工して装着アダプターを作成しようかと思います。

参考

参考文献
(*1) 顕微鏡の構成と仕様 ~接眼レンズ・鏡筒~ OLYMPUSのホームページ
(*2) 顕微鏡の用語集 WRAYMERのホームページ
(*3)機器ガイド 偏光顕微鏡 小林、川地
(*4)(株)ニコン 光とミクロと共に : ニコン75年史


(*5)自宅で使用している偏光顕微鏡について
 自宅にある偏光顕微鏡は「ニコンPOH」。POHにはいくつかのモデルが存在しますが、うちのは中古で購入したこともありモデル名はわかっていません。参考文献(*3)から13型かもしれないという見解に至っています。
 参考文献(*3)によると13型は2型の次のモデルらしい。2型は単眼の顕微鏡であるため、13型はニコンの偏光顕微鏡では初の双眼の偏光顕微鏡かもしれません。発売年はハッキリわかりません。1960年代末期~1970年代前半と予想しています。2型の発売が1967年8月28日(*4)であり、その後、ニコンは1976年にCF光学系に移行します。オプチフォトが1978年発売されます。POHはCF光学系ではなく、1970年代後半には生産終了と予想します。本記事を書いている2023年から半世紀を経ている年代物ですが、今でも使える状態です。対物レンズの芯出しができていないという問題はありますが。。。