コノスコープ観察 ~黒雲母~

 偏光顕微鏡の観察には大きく分けて2種類の観察方法があります。オルソスコープ、コノスコープと呼ばれます。オルソスコープは、岩石薄片を二つの偏光板によりオープンニコル、クロスニコルで観察する通常の観察方法で、どの偏光顕微鏡でもできると思います。コノスコープは干渉像を観察する特殊な観察方法で、コンデンサやベルトランレンズを備えた偏光顕微鏡でないと観察がしづらいです。
 自宅にあるニコンPOHにはコノスコープ観察機能が備わっています。コノスコープ観察ができるようになると、より明確に鉱物を調べることができるようになります。難しそうですが、やってみることにしました。


コノスコープ観察するには

 偏光顕微鏡のステージの下にコンデンサという装置がついています。コンデンサは照明の光を狭い範囲に集光する機能があります。その範囲内では、コンデンサ内のレンズにより斜めからも光を当てられるようになり、干渉像観察に適した状態になるらしい。コンデンサにより集光しない場合は光量が足りず、干渉像がハッキリしないです。

 書籍(*1)には、クロスニコルにして、コンデンサにより集光した状態にして、対物レンズを40倍以上にし、接眼レンズを外すと干渉像が見えるとありますので、実際にやってみました。

 確かに見えます。上記写真はニコンPOHの写真鏡筒を覗いた写真です。矢印の先に見えている小さな像が干渉像です。見えることは見えるのですが、像が小さく、鏡筒の真上からまっすぐ見ないと像が欠けてしまうし、接眼レンズがない状態なので、鏡筒内に埃が入ります。写真もかなり撮りづらいです。この写真を得るまでに29回撮影を失敗しています。なお、撮影のため写真鏡筒を使用していますが、接眼レンズを外せば通常の観察用の鏡筒でも同じように見ることができます。
※この写真は、ミラーレス一眼カメラに通常撮影用のレンズを装着し、鏡筒の真上から、干渉像にピンポイントでピントを合わせて撮影しています。

 接眼レンズを装着した状態で大きく見れないと観察しづらいです。それを実現するのがベルトランレンズです。接眼レンズを装着し、ベルトランレンズを挿入してみます。ニコンPOHでは中間鏡筒にベルトランレンズを操作するリングついていて、回すと出し入れできます。ベルトランレンズを入れ、写真をとってみました。



今回の観察に使用した岩石

 結晶が大きく、鉱物名がわかっている方がやりやすいので、今回は以下の岩石を使用しました。

 これは、浦河町で採集したランプロファイアーという岩石です。ランプロファイヤーは「斑状全自形組織を持つ暗色脈岩の総称」とあります。(*2) ここのランプロファイアーの見た目は、玄武岩の中に黒雲母の大きな自形結晶がブツブツ入っている岩石です。この岩石を薄片にしたものが以下です。


 以下がクロスニコルの顕微鏡写真です。青い矢印が指している鉱物が今回のターゲットで、黒雲母の自形結晶です。C軸に垂直な方向に切っているものがよいかと思い、多色性が少なく、へき開がないものを選んでいます。



コノスコープで観察できる光学的特徴

 コノスコープでは以下のような光学的性質を観察できるとあります。(*1)

一軸性結晶、二軸性結晶

 鉱物の結晶には光軸と呼ばれる軸があります。光軸は、結晶の中で複屈折し二つに分かれた光の速度が同じになる方向らしく(この辺りは詳しく知らない)。光軸が一本のものと、二本のものがあるとのこと。1本のものを「一軸性結晶」、二本のものを「二軸性結晶」と呼ぶとあります(*1)
 コノスコープは、光軸を垂直に近い方向で切っている薄片で観察できる干渉像をベルトランレンズで拡大して見るとのことで、まず、観察に適した結晶を薄片の中から探さねばならないという、最初から大変です。

光軸角

 二軸性結晶の場合、二つの光軸が交わる角度(*1)。アイソジャイアーの見え方で計測できるらしい。まだやったことがないので、ここでは省略。

光学的正負

 詳しい理屈はわからないのですが、偏光顕微鏡で観察できる光学的特徴に「光学的正負」という特徴があり、雲母検板を挿入した時の色の付き方で判別するとのこと(*1)。


干渉像の観察

 クロスニコルにし、コンデンサで集光した状態にし、対物レンズを40倍、ベルトランレンズを入れて観察します。ベルトランレンズを入れると、写真鏡筒に撮影用のアダプターを使用してカメラを装着すると写真撮影ができます。
※なお、通常の肉眼観察用の鏡筒の接眼レンズを外し、撮影用のアダプターでカメラを装着しても同様に撮影ができますが、カメラが安定して装着できる写真鏡筒で撮影しています。

 黒い帯のような部分がアイソジャイアーと呼ばれるもので、十字になっている感じです。黒雲母は二軸性鉱物ですが光軸角が0°に近く、アイソジャイアーは一軸性鉱物に近い十字になるとのことなので、理屈は合っています。次に、雲母検板を入れてみます。

 雲母検板を挿入した状態では、光学的性質の一つ「光学的正負」を確認することができます。雲母検板なしで観察した際のアイソジャイアーがクロスしている部分の左上と右下が青くなっており「負号」になります。書籍(*1)によると黒雲母は負号なので、これも理屈に合っています。
 アイソジャイアーが十字の時の正負の判断は書籍(*1)による以下のようになります。負号は第二象限と第四象限が青(「相加」という)、第一象限と第三象限が黄色(「相減」という)です。


 ステージを回転させて観察すると以下のような感じです。動画をとってみました。

対物レンズの中心合わせをしていないため、ズレてこんな動きになってしまいますが、かえって、背後に十字のアイソジャイアーがあることがわかりやすいように思えます。

雲母検板を入れた状態で観察すると、負号(青い部分(相加)が第2象限と第4象限にある)であることが見て取れます。


まとめ

コノスコープの観察をするためには
・クロスニコルにする
・コンデンサを集光した状態にする
・40倍以上の対物物レンズにする
・接眼レンズを外して鏡筒内を見る
ことが必要です。
接眼レンズを装着して大きく観察する場合、写真を撮影する場合は、
・ベルトランレンズを入れる
ことが必要です。

コノスコープで確認できるのは、
・一軸性結晶、二軸性結晶、の判別
・光学的正負の判別
・光軸角の測定
です。
しかし、実際の観察は難しく、
・薄片内で観察に適した結晶を探すのが大変(結晶軸C軸を垂直に近い角度で切っているものがいいが、ピッタリ垂直だと逆に観察ができないらしい。難しい。。)


 偏光顕微鏡での鉱物同定は、いくつかの光学的性質から総合的に判断すると思っています。オルソスコープで確認できる範囲で決められればよいのですが、そうでなければ、コノスコープ観察から得られる情報を加味する必要がでてきます。書籍を読むと、偏光顕微鏡観察だけでは決められない場合もあるため、厳密に鉱物を同定する場合はX線分析が必要とあります。ですが、X線分析機器は1000万円以上はする機械です。大きな電力を必要とし、維持管理が大変で、X線分析をする資料準備などありますし、使いこなせる技術者も必要です。色々とハードルが高いです。専門の機関に依頼すると安くても1回1万円くらいです。そのため、X線分析は最後の手段だろうと思います。基本的にまず肉眼でのしっかりとした観察が必要で、フィールドを見てサンプルを採取し、偏光顕微鏡の観察で鉱物をほぼ同定するとともに石の組織を調べる。ここまでで多くのことがわかる。どうしてもわからない部分や、ほぼわかっているけれども、揺るぎない同定が必要な場合にX線分析をするのだろうと思います。X線分析までする場合は、調べる目的があるはずと思います。


ベルトランレンズがない時の写真撮影

 ベルトランレンズを挿入しないときは、(*1)の書籍にあるように、クロスニコルにして、コンデンサで集光した状態にして、対物レンズを40倍以上にして、接眼レンズを外すと鏡筒内に干渉像が見えます。

 この見えている干渉像を写真に撮ろうと思ったのです。スマホのカメラレンズを鏡筒の真上に合わせてみたのですが撮影できず。。。顕微鏡用のカメラアダプターやリレーレンズを使って撮影すると、見えている干渉像ではなく、岩石薄片の像が撮影されてしまいます。下の写真です。(400倍に拡大された黒雲母)

 これは、装着したカメラが接眼レンズの視野絞りの位置に結像している岩石薄片の像を撮影してしまっているためと思います。
 干渉像は書籍(*1)によると、対物レンズと上方ニコル(アナライザー)の間に結像しているとのこと。干渉像をまともに撮影するには、接眼レンズの視野絞りの位置に干渉像を結像しなおすレンズを入れないとならないのだろう思え、このレンズが「ベルトランレンズ」なのだとわかりました。
 ベルトランレンズが対物レンズの働きをし、対物レンズと上方ニコル(アナライザー)の間に結像している干渉像を、接眼レンズの視野絞りの位置に結像し直している。そのため、接眼レンズで干渉像を拡大して観察できるし、カメラアダプターやリレーレンズを用いてカメラを装着して写真も撮れるのだとわかりました。
 ベルトランレンズがなくても干渉像の写真撮影はできるにはできるけれども、実用的ではないと思えました。コノスコープの観察には、ベルトランレンズが使える偏光顕微鏡の使用をおすすめします。


参考文献

(*1):偏光顕微鏡と造岩鉱物 第2版 共立出版
(*2):地学事典 平凡社
(*3):偏光顕微鏡での観察 倉敷市立自然史博物館のホームページ内