岩石薄片作成 その2 ~緑色岩を見てみる~

緑色岩を岩石薄片にしてみる

作業日:2022.06.18-19
 前回蛇紋岩の岩石薄片を作成しました。(⇒こちら参照)今度は緑色岩だろうと思っている石でやってみることにしました。

緑色岩とは

 緑色岩とは「緑色岩は苦鉄質火成岩を起源とする弱変成岩で、特に付加体の中に多く見られます。これらの多くは海底火山から噴出した玄武岩類で、熱水変質作用を受けてもとの鉱物が変成鉱物にかわったものです。」とあります。(*1)
 苦鉄質とは「苦(マグネシウムのことを言う)」と「鉄」を多く含むことを言います。火成岩とは「マグマからできた岩石」という意味です。まとめると「苦鉄質火成岩」とは、「マグネシウムと鉄を多く含む、マグマからできた岩石」ということになります。苦鉄質火成岩の代表格は「玄武岩」です。玄武岩は、例えば、ハワイのキラウェア火山が噴き出すマグマが固まった黒い岩石。ハワイはホットスポットというマントルから直接マグマが供給されている場所らしい。他、海洋底が誕生する海嶺から噴き出すマグマ(ここもマントルから直接供給されている)が固まった岩石も玄武岩です。マントルからマグマが直接供給されているところは玄武岩が噴出するんだなと思います。
 噴出した場所には火山灰が固まった凝灰岩や溶岩が積もります。海底火山だったら、枕状溶岩やハイアロクラスタイトが出来たりします。噴出しなかったマグマは地下でゆっくり固まり、結晶が大きく成長した玄武岩(粗粒玄武岩(ドレライトという))になったり、さらに結晶が成長して結晶で満たされた岩石「斑レイ岩」になったりします。
 玄武岩が緑色岩になる相当の変成作用を受けた時、緑色の鉱物(緑泥石、緑簾石、緑閃石(アクチノ閃石))ができるので、岩石全体が緑色になってくるようです。

(*1)産業総合技術研究所 地質調査総合センターのホームページ:https://gbank.gsj.jp/geowords/glossary/ra.html

原岩とチップ

 原岩。緑色岩ではないかと予想して採集したものです。新鮮な部分がなかったので、全体的に風化しているようですが、なるべく硬い部分を採集。表面は茶色で錆びたような感じになっています。恐らく、鉄分が多い岩石だと思います。緑色岩は元は玄武岩なので、鉄分は多いからかなと思いました。

 上記岩石を切断しました。切断風景は⇒こちらです。作成した岩石チップは以下です。左側のものを使います。ちょうどスライドガラスに収まるくらいです。

 岩石チップを拡大して見てみます。鉱物組織が見えます。地は青っぽいグレーで結晶が見えないです。そこに斑晶のような緑がかった黄褐色の鉱物がブツブツ入っています。左上には赤い色を染み込ませたような脈があります。また、穴も開いています。
 石基に斑晶がある火山岩の組織に見えます。通常、火山岩では、緑っぽい黄褐色の鉱物は「かんらん石」ですが、これはかんらん石っぽくないです。緑色岩とすると赤い部分はたぶん「赤鉄鉱」。緑色岩になるくらいの変成作用を受けているとすると、緑っぽい黄褐色は「緑簾石」か「緑泥石」なのかもしれません。穴は火山噴出時に出来た火山ガスが抜けた跡ではないかと思われます。地下で圧力を受けるので穴は潰れてしまってイビツになったのかな。



岩石薄片作成過程

スライドガラスにチップを張り付けた状態。


削っていくと水が赤くなってきました。恐らく、チップの赤い部分が削れた泥と思います。石を削った時の泥は、素焼きの器にこすりつけて時の条痕色と同じと思います。この強い赤さ加減はたぶん赤鉄鉱でしょうね。さらに削っていきます。


光が通るようになってきました。0.3mmくらいの厚さ。


0.1mmくらいの厚さかな。厚さにムラが出てきました。写真の上の方が色が濃いので、たぶん若干厚いです。厚い部分に力を入れて削ります。薄片の外周も色が濃いように見えますが、恐らく風化して酸化しているのではないかと。。

だいたい均一な厚さになったかな。0.1mmより少し薄いくらいか。
これからは全体的に削っていきます。


薄片の厚みはどこで見る

 これでたぶん0.03mmくらいの厚さ。偏光顕微鏡観察における規定の厚さです。書籍等に載っている岩石薄片観察用の鉱物の光学的性質の情報は、厚さが0.03mmの時のものなので、岩石薄片は0.03mmにしないと正しく観察し難いのです。
 緑色岩は弱い変成作用を受けた岩石ということで、中の鉱物は変わってしまっていると思っていたのですが、実際に見てみると、斜長石は健在だとわかりました。そのため、偏光顕微鏡のクロスニコル状態で見た時に、斜長石が白く見えるようになるまで削ると0.03mmです。これは「ミシェルレビの干渉色図表」で薄片の厚さが0.03mmの時の長石類の複屈折率の時の色を見ると判断でます。(*2)

(*2)「ミシェルレビの干渉色図表」 岡山県倉敷市の博物館のページのようです。わかりやすかったです。

偏光顕微鏡で撮影した画像

偏光顕微鏡で見てみます。全体感を見るために低倍率で見ます。

オープンニコル(20倍)
 半分くらいが色が付いた鉱物(有色鉱物)です。左上に結晶の間を真っ黒な鉱物が埋めている筋があります。この部分は反射光で見ると赤いのですが、こうして透過光で逆光で見ると真っ黒に見えます。この黒い筋以外にも、黒い鉱物がブツブツ入っています。黒い筋の近くには黄褐色の鉱物が点々とあり、黒い筋から遠ざかると、黄褐色の鉱物が減り、緑色っぽい鉱物が多くなってきます。真っ白で泡が入った部分があります。

クロスニコル(20倍)
 オープンニコルで透明な部分は、白い短冊状の鉱物で充填されているのがわかります。鉱物の向きによって白だったりグレーだったりしていますが。。左上の黒い部分は黒いままです。また、黒い筋以外の黒くブツブツした部分も、同じく真っ黒のままです。光を通さない不透明な鉱物のようです。黒い筋の近くの黄褐色の鉱物は、ギラついて派手な黄色になっている感じがします。黒い筋から遠ざかると、黄色い部分は少なくなり、緑色っぽいグレーの部分が多くなっていく感じがします。オープンニコルで真っ白で円形の気泡のようなが入った部分は、濃いグレーで塗りつぶしたような感じになっています。気泡が入っているのは、スライドガラスに貼り付けた時に、この穴に気泡が残ったためです。この部分は薄片に空いていた穴だと思われ、元々は火山ガスが抜けた気泡と思われます。この他にも濃いグレーで塗りつぶさたようなところがチラホラあります。この岩石が火山岩(火山で噴出した岩石)であることを物語るものかなと思います。

 全体的に見ると玄武岩質組織であることがわかりました。石基の部分が短冊状の斜長石の結晶などの微細な結晶と非常に細かな結晶、及び、鉄鉱(磁鉄鉱や赤鉄鉱)や天然のガラスで充填されています。また、玄武岩によくある「オフィチック組織」のような組織(元々はオフィチック組織(輝石の中に小さな斜長石などの微細な結晶が取り込まれていた)だったものが、取り込まれていた鉱物が変質や変成して違うもの(黄色の鉱物)に変わってしまって、斑晶が崩れてしまっているように見えていると思う)がありました。斑晶は少ないですが輝石がありました。また、黒いツブツブが無数にあります。この岩石は磁石に付くので「磁鉄鉱」と思われます。この岩石は元々は「玄武岩」と思います。

 玄武岩なのですが、全体的に結晶がザラザラしていて汚れています。拡大して100倍で見てみます。真ん中の結晶がかなり汚れています。結晶の外側から変質したように黄色い鉱物(粘土鉱物だろうか。。)になってしまっています。形や劈開の方向から輝石のような気がする。中心部に元々の結晶が残っています。左上の結晶も同様です。
オープンニコル(100倍)

クロスニコル(100倍)


 比較的形が残っている斑晶がありました。玄武岩に入っていて、消光角40度くらい、劈開が90度で交差する、形が輝石っぽいので、恐らく普通輝石ではないかと予想。まともな斑晶はこれくらいしかなかった。
オープンニコル(100倍)

クロスニコル(100倍)


 全体的にまともな斑晶はほとんどなく、多くは元々は斑晶だったものが変質して崩れたような感じに見えます。斑晶の中に取り込まれていた鉱物が変質してしまって斑晶が崩れたように分離して見えるのかもしれません。石基の部分は短冊状の斜長石がたくさんありますが、斜長石も変質している感じで、形がぼやけていますし、ブツブツ荒れて汚れています。玄武岩が元になって変質した岩石である「緑色岩」と思います。緑色岩であれば、変成鉱物として「緑泥石、緑簾石、アクチノ閃石」など、緑色の鉱物が現れると書籍には書いてあります。それらの鉱物については、まだ経験不足でハッキリわからないので言及は控えます。判明したら追記します。


回転させるとこんな感じ

オープンニコル

クロスニコル


参考文献

地学事典 平凡社
偏光顕微鏡と造岩鉱物2 黒田吉益・諏訪兼位 共立出版株式会社
岩石記載学入門 W・S・マッケンジー/A・E・アダムス 千葉とき子 訳 Manson Publishing Ltd.
岩石薄片図鑑 青木正博 成文堂新光社
記載岩石学 周藤賢治・小山内康人 共立出版株式会社