ニコン S-Po 改 ~50年前の顕微鏡を活用する~

50年前の輝きを取り戻す:ニコン S-Po型顕微鏡のレストアと近代化

本記事作成日:2026.01.04
 ジャンク品として購入した顕微鏡「ニコン S-Po」を活用するため、しっかり観察できるように照明装置をあれこれ試行錯誤した時のお話です。

 

6. 照明の改善

 S-Poの標準構成には照明装置はなく、ミラーが付いているのみです。ミラーによる採光では安定的な照明が難しいため、照明装置を付けることにしました。

適切に照明されているとは

 まず、顕微鏡で適切に照明されているとは、以下ような状態で照明されること思います。
・視野全体が均一な明るさである
・視野の明るさは、光源が持つ最高の明るさである
・スイッチONですぐ観察できる


 これらの状態は、ケーラー照明が適切にセッティングされていると実現できる照明の状態です。ですが、S-Poはケーラー照明を内蔵していません。ディスクトップのケーラー照明をミラーに照射する手はありますが、セッティングが面倒で運用が難しいです。(➡︎デスクトップケーラー照明) 

ミラーに照明を当ててみる

 デスクトップケーラー照明は、観察の度にセッティングするのが大変なので、単純にデスクスタンドライトを当ててみることにしました。25Wの強力な高演色LED照明がついています。試してみます。

 明るさはありますが、ミラーで反射するだけなので、光源自体が見えてしまい、視野内が均一な明るさになりません。

そこで、光源の前に半透明のプラ板を重ねて置き、光を散乱させてムラを軽減してみましたが、色々な角度でやってみましたが、均一は明るさにならず、今ひとつです。


 光源自体にあまりムラのない白熱電球を用いてはみましたが、全方向に光が散乱するようにできているので、明るさが足りずダメでした。


ニコンのS型顕微鏡用の小型照明装置を使ってみる

 ニコンはS型顕微鏡の照明装置のバリエーションの一つとして、ミラーの位置に装着する小型照明を出していました。ジャンク品を購入して使ってみました。

光源はフィラメントがかなり大きいタングステン電球で、簡易的な集光レンズを兼ねているのであろう散乱板がついており、光源のムラが見えないようにしているようです。S型顕微鏡は元々ステージの作動距離が短く、S型顕微鏡用の対物レンズも同焦点距離(対物レンズの取り付け位置からプレパラートの標本までの距離)が36mmと短いです。オプチフォト時代の高性能対物レンズ(同焦点距離:45mm)を装着して精度良く見ようとすると、対物レンズとステージの間が広がるので、結構ギリギリで下部偏光板(ポラライザー)に当たりそうになりました。超作動レンズLWDを使うとピント合わないかもしれません。


 タングステン電球の光は色温度が低く、岩石薄片観察では干渉色が正しく出ませんので、色温度を上げるブルーフィルターを付ける必要があります。このブルーファイルターは、S型顕微鏡時代の偏光顕微鏡に付いていたものを使ってみました。

 接眼レンズを目視する限りでは、極端な明暗ムラは感じないですが、写真に撮ると、視野中心部が明るく、周辺の明るさが足りないことがわかります。また、写真にはありませんが、高倍率では暗くて観察が難しくなり、実用するには至らないと思いました。



小型顕微鏡用の廉価版LED照明を試してみる

 次に試したのは、顕微鏡用の小型LED照明装置です。この照明装置の利点は、比較的小型でステージの作動距離への影響が出づらいのと、価格が安いこと、USB給電でモバイルバッテリーを使うことで顕微鏡の持ち運びがしやすくなること、明るさもあることです。一方、品質は今ひとつです。過去には、光量調整ダイヤルが斜めに付いていて分解修理したこともあるし、3分くらいでLEDが消えてしまうものもありました。演色性は赤が弱いため、補う必要があります。

 これをステージの下に設置してみてみると、光量が十分ありそうですが視野周辺の光量が足りず暗くなってしまう問題がありました。

 おそらく、光が拡散してしまってコンデンサに十分な光が届いていないと思いました。この照明装置には、LED光源の像が直接見えないように、プラスチック製の散乱版が付いています。この散乱板は、上で触れたニコンの小型照明装置同様、薄いレンズ状の形をしていますが、光をコンデンサに導く機能はほとんど持っていないようです。
 光源の持つ最高の明るさでプレパラートを照らすためには、ケーラー照明の原理から考えると、光源の像(この場合はLED発光体の像)を視野いっぱいになるように拡大してコンデンサに届ける必要があります。ケーラー照明はこれを実現するために、光源のすぐ先に「集光レンズ」というのを置き、このレンズが光源の像をコンデンサのすぐ手間にある開口絞りの位置に結像するようにしています。実際には、集光レンズだけでは拡散を十分防ぐことができず、集光レンズの先に「フィールドレンズ」というのを置いて拡散を防ぎ、光源の光をなるべく損失させずにコンデンサに届けています。
 この原理を参考にして照明装置をみると、問題点は
・集光レンズやフィールドレンズはついておらず、光が拡散してしまっている
そこで、
・フィールドレンズに相当するレンズを付けて、拡散していた光をコンデンサの方に向ける
ことをしてみました。
・設置位置:拡散板の上に乗せる
・サイズ:拡散板の上にハマるサイズ
・レンズの焦点距離:LEDの発光体がレンズの焦点の少し内側になるくらい
 ※レンズを通った光が拡散せず収束するようにするため
・アクリル製の安いレンズ


結果、明るく均一で良好な視野が得られました。写真撮影しても明るさのムラが感じられない程度で、実用上問題ないレベルと思えました。


 実際に、配光がどう変わったかを見てみました。真っ暗な部屋で、LED照明を横向きにして、白い紙に照射してみました。フィールドレンズの あり・なし で実験してみます。

 フィールドレンズがない場合は、光が拡散し、全体的に明るさが落ちていることがわかります。フィールドレンズがある場合は、中心付近に光が集まり明るくなっています。どちらも中心付近は真っ白に見えるのですが、段階的に明るさを区切ってみると違いが見えてきます。

 以下の写真は、明るさを段階的に区切って色分けしたものです。LED照明と照射した紙の間の距離は、LED照明とコンデンサの直前にある「開口絞り」の距離と同じにしています。ケーラー照明の原理では、光源(電球の場合はフィラメント、LEDの場合は発光体)の像を開口絞りの位置に拡大して結像します。コンデンサは、その像を光源とみなして、対物レンズへ並行な光を供給します。こうすることで、その光源の持つ最高の明るさで照らすことが可能となります。また、緑色の楕円は、コンデンサレンズの範囲を示しています。この範囲だけに、その光源が持つ最高輝度の光が満ちるのが理想的です。

・フィールドレンズがない場合
 最も輝度が高いところで最高輝度の95%。中心付近の白くぼやけているところです。視野の中心は明るいけれども周辺部の明るさが落ちて見えたのはこの影響と思います。次に明るい領域は輝度が84%以上の領域で、コンデンサの範囲を超えて広く照射されます。さらに外側にも明るく拡散しています。広範囲を照らしすぎるので、視野外から光が迷い込んでコントランスが落ちて見えるようになると思えます。


・フィールドレンズがある場合
 レンズの中心(十字線)の部分に黄色い部分がありますが、これは、最も明るい部分(写真撮影した時に真っ白(赤、緑、青が全てが最高輝度のところ)です。この部分が円形にクッキリしており、LED発光体の像となっていると思われます。次に明るい部分は輝度95%以上の部分で、コンデンサレンズの範囲内いっぱいではないですが広範囲に照らしています。


 うちのS-Poの場合は、最高輝度から5%以内の均一した照射範囲が、コンデンサレンズ内をある程度満たしていると、視野内が均一に明るい状態になるように思いました。これで、20倍以下の対物レンズは均一で明るい視野が得られましたが、40倍以上の対物レンズで見ると問題がありました。また、散乱板にも問題がありました。それらについては、またの機会に書きます。